(2)技術面_①新製品・新サービスの革新的な開発とは?

B!

いきなりですが、この審査項目はものづくり補助金の核心をつく審査論点です。

特に「革新的」とは何を指しているのか、という点について理解しておく必要があります。

以下が審査項目。

新製品・新サービス(既存技術の転用や隠れた価値の発掘(設計・デザイン、アイデアの活用等を含む))の革新的な開発となっているか。

なぜ核心をついた審査論点かというと、そもそもこの審査論点を満すテーマのみがものづくり補助金の主旨に沿った事業計画になり得るためです。極端な言い方をすると、これ以外の審査論点はその枝葉と考えていただいて結構です。

さて、公募要領を確認すると、後段には以下のように補足されています。

公募要領(4次締切)19P(2)_技術面より抜粋

※大多数の申請者には関係のない「グローバル展開型」はいったん無視して以下説明に進みます。

「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」(経済産業省[外部サイト]

「中小企業の特定ものづくり基盤技術の高度化に関する指針」(中小企業庁[外部サイト])

昨年度まで前者は「革新的サービス」、後者は「ものづくり技術」というタイトルで整理されていましたが、今年からはこの文言が消え、さらにそれぞれが2つに分解され合計では新たに4類型での整理になっています。

電子申請画面より抜粋

 

この4類型の内、自社が取り組む事業はどれが最も近いのかを選択する必要があります。赤枠の下にあるそれぞれのチェックボックスは自社に該当する取組みであれば複数チェックができます。

なお、自社の取組がどれにあたるのかについて迷われた方は、以下の記事をご参考ください。

※記事は昨年度版のもので、名目としては「革新的サービス」「ものづくり技術」という名称整理で記事を書いていますが、どれを選択するかという意味では特に影響はありません。

さて本文部分に戻りますが、これイマイチ理解しにくい文章ですよね。

 

新製品・新サービス(既存技術の転用や隠れた価値の発掘(設計・デザイン、アイデアの活用等を含む))の革新的な開発となっているか。

その理由はおそらく以下の2つです。

  1. ()カッコ書きが2つ存在しており複雑にみえる
  2. そもそも単語の意味が解らない

先ず前者ですが、この文章には大カッコの中にもうひとつ中カッコがあり体系化されています。複数のカッコで整理されていることで複雑に見えます。

後者については、「革新的な開発」や、カッコ内にある「既存技術の転用」「隠れた価値」とは何なのか、また「アイデアの活用等」「等」とはいったいどこまでの範囲のことを言っているのか、明確な理解が出来そうにありません。
結論的にいうと「等」と書いてしまっている時点で、「その他それっぽいもの全て」という意味になります(笑)
よって、この点についてはさほど気にしなくても大丈夫です。

()カッコは無視して概略を捉える

よってカッコ内は無視して理解していきましょう。

()カッコを無視するとこうです。

 

「新製品・新サービスの革新的な開発となっているか」

どうでしょう?多少は簡単に見えませんか?

ただ、やはりこのままでは明確に意味は解りません。

そこで、先ずはこの文章中に存在する単語である「新製品・新サービス」革新的な開発」の関係を、事業の全体像を図示しながら説明してみたいと思います。

 

新製品・新サービスについては、ここでは「理想の姿」とまとめています。

そして「革新的な」と「開発」を分解しています。

このよう整理すると「開発」つまり補助事業自体は、あくまでも革新的な理想の姿を実現するための「手段」であるということが解ると思います。

設備導入は手段、それ自体に革新性を求めていない

そうすると重要なのは「理想の姿」である「新製品・新サービス」自体に革新性があるかどうか、と考えるほうが妥当でしょう。

つまり、「革新的な開発」とは、

「革新的」である理想の姿に向かって「開発」を行う

という理解で良いと思います。

課題を把握し、具体的な解決策に落とし込む

全体の構図に話を戻します。

先ず新事業には「理想の姿」があるはずで、それに対して「現状」が存在します。この「理想の姿」と「現状」とのギャップが「問題」です。
「問題」は状態そのものを指しているので、それを克服する必要があります。
これに対応するのが「課題」(こうするべき、こうあるべき)です。

そして、課題を克服して理想の姿を目指すための具体的な行動が「解決策」となります。

※この「課題」や「解決策」は、後に続く技術面②及びの審査論点にそのまま関連するので、先ずはこの構造を理解しておくことが重要かと思います。

「革新」の定義は公募要領には書いていない

そして次ですが、ここから理解すべきは、「革新的」という単語の意味です。
いったい「革新的」とは何を指しているのでしょう。

「開発」に関しては前述のとおり「解決策」を指していますので、さほど深読みする必要はありませんが、問題は「革新的」という表現です。

そこで、辞書で調べてみると「革新」や英語訳の「innovation」について、次のような説明があります。

 

古くからの習慣・制度・状態・考え方などを新しく変えようとすること。特に,政治の分野で社会体制・政治組織を新しく変えること。また,変えようとする勢力。

出典:三省堂 大辞林

 

イノベーションとは、それまでになかった技術や仕組みを打ち出すことで既存の仕組みや在り方を一変させること、といった意味で使われる語である。

出典:IT用語辞典バイナリ

 

また、「イノベーション」という言葉を初めて定義したオーストリアの経済学者、シュンペーターは、イノベーションを以下の5つの類型に整理しています。

 

イノベーションとは
    • 新しい財貨の生産
    • 新しい生産方法の導入
    • 新しい販売先の開拓
    • 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
    • 新しい組織の実現(独占の形成やその打破)

どうでしょう。何となく「既存とは違う新しい何かである」という雰囲気は伝わるものの、これだけ表現の幅や深さに違いがあると、革新とは明確に「コレだ!」という解にまで結びつくところまではいきそうにありません。

つまり、いくら言葉の定義を外から引っ張ってこようとしても多様な解釈があり、結局のところ、ものづくり補助金においての「革新的」の意味はよく解らない、というのが実際のところなのです。

「革新的」とは自社商圏や業種内で目新しいもの

そこで、色々調べてみると過去の中小企業庁のインタビューではこのように語られていました。

Vol.4 新ものづくり補助金_商業・サービス編(中小企業庁に聞く) 「補助金・助成金を使いたいけど、どうやって申請するのかわからない」みなさまのそんなお悩みにお答えします。
- www.mirasapo.jp

 

「【革新的サービス】は、自社になく、他社でも一般的ではない、新たな役務を取り込んだ(取り入れたも含む)新サービス、新商品開発や新生産方式」です。

「革新的」かどうかの判断基準は、例えば、新しい設備・機器を導入しても、『当社比』で革新が行われたというようなことではあてはまらず、『地域の先進事例』や、『業種内での先進事例』にあたるかどうかなど、『相対的』な視点から、革新性を示さなければなりません。

ただ「性能の良い機器を買う」といったような内容では、採択にはつながりにくいということですね。

うーん、これは良さそうです。

中小企業庁は、ものづくり補助金を実施する経済産業省の組織ですので、「革新的」の定義は概ねこのインタビュー記事が正式見解という理解で良いでしょう。

まとめますと、革新的とはこう整理できるかも知れません。

革新的とは
「自社の新たなチャレンジであり、業種内で新しい取り組み、または自社商圏における他社の取り組みと比べても、目新しいサービス・新商品・生産方式を実現した姿」

ちなみに、この中小企業庁の担当者が言われている定義ですが、各都道府県が先進的な中小企業の取り組みを認定する制度である「経営革新計画」の「革新」の定義を説明しています。経営革新計画を取得されたことのある事業者であれば、「あぁ、経営革新計画と同じだね」と感じられるのではないでしょうか。

「開発」自体はあくまでも手段

繰り返しになりますが、重要なのは「革新的な理想の姿」であり、決して補助事業期間に導入する設備のスペックやその他の取組みそのものではありません。

設備導入自体を目的化してしまうと、「革新的な理想の姿」を見失いがちになります。
先ずは「革新的な理想の姿」を描いてみることが大事ということですね。

結局、どの類型で提出しようと基本の考え方は同じ

これまで、技術面①について主に「革新的な開発」という言葉を読み解きながら説明してきました。

ザッくりまとめると、
「革新的」とは、「自社商圏または業界内で目新しい取組みを目指すものかどうか」ということになります。

そして「開発」はその手法のことを指しており、その手法自体は明確に記載をしていく必要はあるものの、それ自体に革新性が求められている訳ではありません。

もう少し説明させてください。

以下は前述した分解構図に少し説明を加えたものです。

 

解決策が「特定ものづくり技術に資する取り組み」なのか「ガイドラインで示された手法」なのか、という違いはあるものの、基本的なこの構図に変わりはありません。

このなかで、ものづくり技術で申請される事業者に多い過ちとして、特定ものづくり技術に関する記述に終始してしまい、「革新的」という部分の記述が薄くなることが挙げられます。

しかし、この審査項目を読み込むと、技術のことを問われているのではないことが解りますよね。先ずは、この構造を理解して全体のストーリーを構想することが重要ということになります。

まとめ:結局申請書には何を書くべきか

これまで述べてきたことをまとめますと、この審査項目で答えるべきことは以下のように整理できます。

ポイント
  1. 理想の姿である「新サービス・新製品」は革新的か
  2. 革新的=「自社の新たなチャレンジであり、自社商圏や業界内で目新たしい取り組み」
  3. 開発=「ものづくり技術」「ガイドライン」いずれかの手法に沿った取り組みであること

1.に関しては、顧客ニーズに沿った、新たなサービス・製品になり得るのか、という点の記述が必要です。

2.では、自社商圏内で目新しい取り組みかどうかを示す必要がありますから、当然競合の状況の記載は必要となります。

そして、3.に関しては、それぞれの手法に沿った取り組みであることを明確に図示するなどの工夫も必要でしょう。

以上 なんとなくこの項目のイメージはつかめたでしょうか。

なお、本項目は他の審査項目に関連する問いとなります。上記1.2.3.はその他の審査項目で個別に述べられていますので、こここは先ず全体の構図をしっかりまとめることが重要ですので、構図の作成から着手してみると良いと思います。

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