※この記事は平成30年補正(2019年実施分)の記事です。
最新版(2020年実施分)はコチラを参照ください
この審査項目は、ものづくり補助金の核心をつく審査論点となります。
特に「革新的」とは何を指しているのか、という点について理解しておく必要があります。
以下が審査項目です。
新製品・新技術・新サービス(既存技術の転用や隠れた価値の発掘(設計・デザイン、アイディアの活用等を含む))の革新的な開発となっているか。
何故、核心をついた審査論点かというと、そもそもこの審査論点を満すテーマのみがものづくり補助金の主旨に沿った事業計画になり得るためです。極端な言い方をすると、これ以外の技術面での審査論点はその枝葉と考えていただいて結構です。
さて、公募要領を確認すると【革新的サービス】と【ものづくり技術】では、続いて以下のように補足されています。
「3~5年計画で「付加価値額」年率3%及び「経常利益率」年率1%の向上を達成する取組であるか」については、解説を革新的サービスの基本②「付加価値」年率3%「経常利益」年率1%の計画とはに記載しましたのでこちらをご覧ください。
さて本文ですが、イマイチ理解しにくい文章ですよね。
おそらくその理由は以下の2つです。
- ()カッコ書きが2つ存在しており複雑にみえる
- そもそも単語の意味が解らない
先ず前者ですが、この文章には大カッコの中にもうひとつ中カッコがあり体系化されています。複数のカッコで整理されていることで複雑に見えます。
後者については、「革新的な開発」や、カッコ内にある「既存技術の転用」「隠れた価値」とは何なのか、また「アイデアの活用等」の「等」とはいったいどこまでの範囲のことを言っているのか、明確な理解が出来そうにありません。
この審査ポイントをどう捉えておけばよいのでしょうか?
この記事の目次
先ずは()カッコを無視して概略を捉える
上述のとおり、この審査項目は一見複雑です。
こういった文章を読み解くコツとして、いきなり深読みするのではなく、先ずは()カッコ内を無視して考えることです。そのほうが理解しやすくなります。
例えば()カッコを無視するとこうです。
「新製品・新技術・新サービスの革新的な開発となっているか」
どうでしょう?いきなり深読みするよりは、多少は簡単に見えませんか?
ただ、やはりこのままでは明確に意味は解りませんよね。
そこで、先ずはこの文章中に存在する単語である「新製品・新技術・新サービス」と「革新的な開発」の関係を、事業の全体像を図示しながら説明してみたいと思います。
新製品・新技術・新サービスについては、ここでは「理想の姿」とまとめています。
そして「革新的な」と「開発」はこのように分解しています。
「革新的な開発」を素直に解釈すれば「開発自体(の手法や手順)が革新的である」と捉えることができます。
設備導入は手段、それ自体に革新性がある訳ではない
しかし、ものづくり補助金は「手段としての」設備導入で新たなサービスや製品を開発する主旨の補助金です。
よって「理想の姿」である「新製品・新技術・新サービス」自体に革新性があるかどうかが論点、と考えるほうが妥当でしょう。
つまり、「革新的な開発」とは、
「革新的」である理想の姿に向かって「開発」を行う
という理解で良いと思います。
課題を把握し、具体的な解決策に落とし込む
全体の構図に話を戻します。
先ず新事業には「理想の姿」があるはずで、それに対して「現状」が存在します。この「理想の姿」と「現状」とのギャップが「問題」です。
「問題」は状態そのものを指しているので、それを克服する必要があります。これに対応するのが「課題」(こうするべき、こうあるべき)です。
そして、課題を克服して理想の姿を目指すための具体的な行動が「解決策」となります。
※この「課題」や「解決策」は、後に続く技術面②及び③の審査論点にそのまま関連するので、先ずはこの構造を理解しておくことが重要かと思います。
「革新」の定義は公募要領には書いていない
そして次ですが、ここから理解すべきは、「革新的」という単語の意味です。
いったい「革新的」とは何を指しているのでしょう。
「開発」に関しては前述のとおり「解決策」を指していますので、さほど深読みする必要はありませんが、問題は「革新的」という表現です。
そこで、辞書で調べてみると「革新」や英語訳の「innovation」について、次のような説明があります。
古くからの習慣・制度・状態・考え方などを新しく変えようとすること。特に,政治の分野で社会体制・政治組織を新しく変えること。また,変えようとする勢力。
イノベーションとは、それまでになかった技術や仕組みを打ち出すことで既存の仕組みや在り方を一変させること、といった意味で使われる語である。
出典:IT用語辞典バイナリ
また、「イノベーション」という言葉を初めて定義したオーストリアの経済学者、シュンペーターは、イノベーションを以下の5つの類型に整理しています。
-
- 新しい財貨の生産
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- 新しい生産方法の導入
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- 新しい販売先の開拓
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- 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
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- 新しい組織の実現(独占の形成やその打破)
どうでしょう。何となく「既存とは違う新しい何かである」という雰囲気は伝わるものの、これだけ表現の幅や深さに違いがあると、革新とは明確に「コレだ!」という解にまで結びつくところまではいきそうにありません。
つまり、いくら言葉の定義を外から引っ張ってこようとしても多様な解釈があり、結局のところ、ものづくり補助金においての「革新的」の意味はよく解らない、というのが実際のところなのです。
「革新的」とは自社商圏や業種内で目新しいもの
そこで、色々調べてみると中小企業庁のインタビューでこのような記事を見かけました。
Vol.4 新ものづくり補助金_商業・サービス編(中小企業庁に聞く) 「補助金・助成金を使いたいけど、どうやって申請するのかわからない」みなさまのそんなお悩みにお答えします。 vol.4 新ものづくり補助金_商業・サービス編(中小企業庁 技術・経営革新課(イノ... - www.mirasapo.jp |
「【革新的サービス】は、自社になく、他社でも一般的ではない、新たな役務を取り込んだ(取り入れたも含む)新サービス、新商品開発や新生産方式」です。
「革新的」かどうかの判断基準は、例えば、新しい設備・機器を導入しても、『当社比』で革新が行われたというようなことではあてはまらず、『地域の先進事例』や、『業種内での先進事例』にあたるかどうかなど、『相対的』な視点から、革新性を示さなければなりません。
ただ「性能の良い機器を買う」といったような内容では、採択にはつながりにくいということですね。
うーん、これは良さそうです。
中小企業庁は、ものづくり補助金を実施する経済産業省の組織ですので、「革新的」の定義は、概ねこのインタビュー記事が正式見解という理解で良いでしょう。
まとめますと、革新的とはこう整理できるかも知れません。
「自社の新たなチャレンジであり、業種内で新しい取り組み、または自社商圏における他社の取り組みと比べても、目新しいサービス・新商品・生産方式を実現した姿」
ちなみに、この中小企業庁の担当者が言われている定義ですが、ほぼ「経営革新計画」の「革新」の定義を説明しています。経営革新計画を取得されたことのある事業者であれば、「あぁ、経営革新計画と同じだね」と感じられるのではと思います。
「開発」自体はそれぞれの手法による
次に「開発」ですが、開発は課題の解決策に相当するものであり、「革新的サービス」と「ものづくり技術」それぞれに対して、以下のように補足がなされています。
【革新的サービス】においては、中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドラインで示された方法で行うサービスの創出であるか。【ものづくり技術】においては、特定ものづくり技術分野の高度化に資する取組みであるか。
平成30年度補正「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」33Pより抜粋
このように補足されている訳ですから、手法に関してはここを深掘るのが最も妥当な判断といえます。
※革新的サービスについては、革新的サービスの基本①ガイドラインで示された方法とは?
※ものづくり技術については、特定ものづくり技術分野の高度化に資する取組みとは?
も併せてご参照ください
それぞれ、このように指定されているということは、それぞれに当てはまる取り組みであるかどうかを、申請書上で示していく必要があります。自身の補助事業がどう該当するのかを示していきましょう。
結局、ものづくり技術も革新的サービスと考え方は同じ
ここまで、ものづくり補助金申請にあたる全体の構図を、主に「革新的な開発」という言葉を読み解きながら説明してきました。
ザッくりまとめますと、
「革新的」とは、革新的サービス・ものづくり技術同様に「自社商圏または業界内で目新しい取組みを目指すものかどうか」が論点となります。
そして「開発」はその手法を指しており、「革新的サービス」と「ものづくり技術」で異なりますから、それぞれの手法に沿った取り組みが必要です。
以下は前述した分解構図に少し説明を加えたものです。
解決策が「ガイドラインで示された手法」によるものか「特定ものづくり技術に資する取り組み」という違いはあるものの、全体の考え方自体に変わりはありません。
特に、ものづくり技術で申請される事業者に多い過ちとして、特定ものづくり技術に関する記述に終始してしまい、「革新的」という部分の記述が薄くなることが挙げられます。
しかし、この審査項目を読み込むと、技術のことだけを問われているのではないことが解ります。
先ずは、この構造を理解して全体のストーリーを構想することが重要ということになります。
まとめ:結局申請書には何を書くべきか
これまで述べてきたことをまとめますと、この審査項目で答えるべきことは以下のように整理できます。
- 理想の姿である「新サービス・新技術・新製品」は革新的か
革新的=「自社の新たなチャレンジであり、自社商圏や業界内で目新たしい取り組み」 - 「ものづくり技術」「革新的サービス」それぞれの手法に沿った開発(取り組み)であるか
- 「3~5年計画で「付加価値額」年率3%及び「経常利益率」年率1%の向上を達成する取組であるか」
この中で、明確に示せる点は3.です。ものづくり補助金の申請書には、年率3%、1%の向上を示す計数計画を入れる図表があらかじめ用意されていますので、そこに達成計画を入れていけばよいです。
ただし、そこに数値を入れて達成計画を示すだけでは不十分です。その根拠を本文中や別紙等で示したほうがよいでしょう。
1.に関しては、自社商圏内で目新しい取り組みかどうかを示す必要がありますから、当然競合の状況の記載は必要となりますし、そもそも顧客ニーズに沿った、新たなサービス・技術・製品になり得るのか、という点の記述も必要でしょう。
そして、2.に関しては、それぞれの手法に沿った取り組みであることを明確に図示するなどの工夫も必要でしょう。
以上 なんとなくこの項目のイメージはつかめたでしょうか。
なお、本項目は他の審査項目にも関連する問いとなります。先ずは全体の構図をしっかりまとめることが重要ですので、構図の作成から着手してみると良いと思います。